認知症

2025.06.16

認知症を予防するためにできる7つのこと
認知症は予防こそが治療である

厚生労働省の報告によると、2022年の日本の認知症患者数は約443万人、有病率は12.3%とされています。
治療薬という観点では、2023年にはレカネマブが、2024年にはドナネマブが、新薬として発売されています。しかし使用のハードルは高く、恩恵を受けるのは一部の方のみに限られています。また、いまだ認知症を根本的に治癒させる薬剤は開発されておらず、現状では薬剤治療によるアプローチは限界があると言わざるを得ない段階です。
こうした背景のもと、認知症の発症率が増加するなか、食事・生活習慣・環境改善による予防効果に注目が集まっています。
今回は、認知症を予防するためにできる7つのことをご紹介します。

① 魚を食べる(オメガ3脂肪酸とビタミンD)

DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といったオメガ3脂肪酸は、脳機能維持・神経保護作用を有することが分かっています。オメガ3脂肪酸の摂取量が多いと、認知症のリスクが低下するというデータがあります。魚(特にサケ、サバ、アンチョビ、イワシ、ニシンなど)はオメガ3脂肪酸が豊富であり、1日1回は摂取したい食材です。
また、ビタミンDの血中濃度が低い人は、認知症のリスクが高いというデータがあります。ビタミンDは太陽の光が皮膚に当たることにより体内で生成されます。そのため、食物から摂取できるビタミンDは少ないのですが、オメガ3脂肪酸と同様にサケやイワシなどの魚に多く含まれます。日光を浴びづらい冬には、ビタミンDをサプリメントで補給することも有効な手段です。

② ビタミンB群の確保

ホモシステインという物質が高値になると、認知症のリスクが高くなるというデータがあります。ビタミンB群が不足すると、ホモシステインが増加することが分かっています。ホモシステインは、必須アミノ酸であるメチオニンの代謝副産物として生成されるアミノ酸です。このメチオニンの代謝に不可欠なのがビタミンB6、ビタミンB12、葉酸で、これらが不足するとホモシステインがメチオニンに戻る反応が停滞して、血液中のホモシステインが増加します。
ビタミンB6はカツオやマグロなどの赤身の魚や、豚ヒレ肉やササミなどの脂が少ない肉類、ゴマや落花生などの種実に多く含まれます。ビタミンB12は牡蠣、アサリ、シジミ、ホタテなどの貝類に多く含まれます。葉酸はモロヘイヤ、ホウレンソウ、ブロッコリーなどの野菜や、のり・ワカメ・昆布などの海藻に多く含まれます。
ビタミンBをサプリメントで補うことも選択肢の1つです。

③ 低炭水化物・低グリセミック負荷

砂糖を多く含む食品をたくさん食べるほど、認知症のリスクが高くなります。甘味を付けた炭酸飲料などはもちろんですが、白い精製炭水化物(例えば、ぬかや胚芽を取り除いた小麦粉で作られたパン・パスタ・うどん・ラーメン、ぬかや胚芽を取り除いた白米)の摂り過ぎにも注意が必要です。玄米や雑穀米、全粒粉、そば粉などの未精製の炭水化物を積極的に取り入れることが必要です。
グリセミック負荷(Glycemic Load=GL)とは、食品に含まれる炭水化物の量と、その炭水化物が血糖値に与える影響の度合いを考慮した、血糖値上昇の指標です。簡単に言えば、どれくらいの炭水化物を摂ると血糖値がどの程度上がるかを数値化したものと言えます。グリセミック負荷の高い食事は、認知症のリスクを高める可能性があるとする研究結果が存在します。

④ 腸と歯と耳の健康を保つ

腸内細菌が認知症と関係することがわかってきました。高齢になるにつれて腸内細菌の内訳(腸内フローラ)が変化していきます。いわゆる「悪玉菌」が増加していくと健康状態に影響します。軽度認知障害のある患者で腸内細菌の変化が生じているという研究データがあります。食生活を改善することで、腸内環境も改善することが知られています。認知症の人に比べて認知症でない人は、伝統的日本食を摂取している割合が高く、魚介類・キノコ類・大豆製品・コーヒーを多く摂取しているという報告があります。これらの食品の摂取が多いと腸内環境が良好である傾向が見られるとされています。
また、歯周病が認知症のリスクを高める可能性が高いことを示した研究が複数あります。歯がほとんどないのに入れ歯を使用していない人は、20本以上の歯が残っている人より認知症発症のリスクが高かったという結果もあります。日ごろから口腔ケアをしっかり行うことが必要です。
耳の機能も大切で、中年期に難聴があると高齢期に認知症のリスクが上昇するというデータが発表されています。また、補聴器を適切に用いることで、認知症の発症リスクが軽減するという報告もあります。

⑤ 運動して筋肉をつけ、体を動かす

運動量の多いグループのほうが、少ないグループよりも認知症の発症リスクが低かったという研究結果があります。
運動によって全身の血流が良くなり、脳にも酸素や栄養が行き渡ります。また、運動をすると脳由来神経栄養因子が増加し、脳の神経細胞に対し良い働きをすることが知られています。
国立長寿医療研究センターが開発した「コグニサイズ」が、認知機能の低下を抑制することも明らかとなっています。コグニサイズは、ウォーキングしながら計算をする、踏み台昇降をしながら「しりとり」をするなど、運動と認知課題を同時に行う手法です。この場合の運動は、全身を使った、軽く息がはずむ程度の負荷がかかるもので、脈拍数が上昇する運動です。運動と同時に行う認知課題は、たまに間違えてしまう程度の負荷がかかるものが推奨されます。

⑥ 社交的で知的な活動を続ける

頭を使う「知的活動」、人とかかわる「社会活動」を日常生活の中にどれだけ多く取り込むことができるかが、認知症の予防のための重要なポイントです。
知的活動については、読書・楽器演奏・ボードゲームに関し、ほとんどしない人よりも、よくしていた人のほうが、認知症になる割合が少なかったとする報告があります。また、どのような知的活動が認知機能にとって良いのかを検討した研究では、音楽鑑賞やパズルに取り組むグループと比べて、カメラの撮影技術やパソコンによる画像編集技術の学習といった新しい事柄の学習を行ったグループで、記憶力の改善がみられたという報告があります。
社会活動については、家族や友人と会うまたは連絡をとる頻度が少ない人よりも、多い人のほうが、認知症になる割合が少なかったと報告されています。

⑦ 良質な睡眠を確保し、ストレスの回復力を高める

アミロイドβというタンパク質は、アルツハイマー型認知症の原因と考えられています。このアミロイドβを除去する働きは、睡眠中に活発になるとされています。そのため、睡眠不足は脳内にアミロイドβが蓄積するリスクを高め、アルツハイマー型認知症の発症リスクを高める可能性があります。
また、睡眠時無呼吸症候群の人は認知症のリスクが高いことが示されています。睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP治療が、認知症の発症を遅らせるというデータもあります。

2016.08.27

物忘れと認知症の違い

認知症には、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などのタイプが存在します。

アルツハイマー型認知症は、現在日本で最も多い認知症です。緩徐に進行し、記憶障害などの認知症症状を呈します。脳に老人斑(アミロイドβ)が蓄積し、大脳皮質の全般的な萎縮を認めます。

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により認知機能障害が出現します。脳の障害が起きた場所によって症状が異なる「まだら認知症」となります。

レビー小体型認知症は、繰り返す幻視体験、早期よりみられるパーキンソニズムなどが特徴の認知症です。(パーキンソニズムとは、脳内のドーパミンが不足して起きるパーキンソン病と同じ症状を示す状態で、動作が遅い、表情が乏しい、手が震える、手足が固い、歩幅が狭くなるなどの症状です)

加齢に伴う物忘れと認知症とは、どのように異なるのでしょうか。

代表的な違いを表にまとめてみました。

加齢に伴う物忘れ  認知症の物忘れ
体験の一部を忘れる
(ヒントがあれば思い出せる)
体験したこと自体を全て忘れる
(ヒントがあっても思い出せない)
物忘れ(忘れっぽさ)を自覚している 物忘れの自覚に乏しい
探し物を努力して見つけようとする 探し物を誰かが盗ったということがある
作話はみられない 作話がみられる
作話:記憶の脱落を埋めるために事実と異なる答えをすること。
物忘れを取り繕うように実際にはない話を構成すること。
日常生活に支障はない 日常生活に支障をきたす
極めて緩徐にしか進行しない 進行性であり、悪化する

 

加齢に伴う物忘れ以外にも認知症とよく似た症状を呈する病気がいくつもあります。例えば、うつ病、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、ビタミン欠乏症などがそうです。

気になる方は、ぜひ早めにご相談ください。

2016.08.27

家族が気付く認知症の手がかり

家族が気付く、認知症の全般的な初期症状

・話に「あれ」「それ」が多くなる。

・人柄が何となく変わったように見える。

・物事に関心がなくなり、投げやりに見える。

・どことなく、だらしない感じで怠惰に見える。

・失敗が多くなり、言い訳をすることが多くなる。

・人付き合いを避け、閉じこもるようになる。

・同じことを言ったり、したりする。

・くどくなったり、ささいなことで怒りっぽくなる。

早期のアルツハイマー型認知症の手がかり

・同じ内容の事柄を何度も繰り返し尋ねるようになった。

・電話に対応しながら調理をするなど、2つの作業を同時にするようになった。

・物の扱いが下手になったり、鍋焦がしなど調理ミスをすることが多くなった。

・季節にそぐわない身なりをしたり、おしゃれを面倒がるようになった。

・冷蔵庫に同じ品物がたまったり、同じものを買ってくることがある。

・探し物をしていることが多くなった。

・小銭が財布にあふれていたり、紙幣での支払いが多くなった。

・迷子になったり、運転中に道に迷うことが多くなった。

・診察日や予約時間を間違うことが増えた。

・薬の飲み忘れや飲み間違いが増えた。

早期の脳血管性認知症の手がかり

・ある日突然、物忘れが悪化したり、言葉が出にくくなったり、手足に力が入りにくくなったりしたことがある。

・高血圧、糖尿病、脂質異常症を指摘されている。

・好きだった趣味に興味を示さなくなり、自宅に引きこもったり、テレビを見ながら横になっていることが多くなった。

・ささいなことで泣いたり、感情をコントロールできないことが目立つようになった。

・夜間の不眠が目立つようになった。