循環器内科

循環器内科とは

循環器内科循環器内科は、全身に血液を循環させている心臓と血管の病気をみる診療科です。内科に含まれますが、薬物療法だけでなく血管を通す細い管(カテーテル)や血管に留置する金属の筒(ステント)などを使った血管内手術の治療や、心臓ペースメーカーの装着手術なども行います。循環器内科という名前から重大な病気になった時にかかる科というイメージを持たれる方もいらっしゃいますが、生活習慣病による動脈硬化や足のむくみなども血管の障害ですから、循環器内科であれば専門的な検査や治療が可能です。身近な慢性症状から、迅速に治療をしないと命にかかわる危険な疾患まで、循環器内科では幅広い診療を行っています。

こんな時には循環器内科にご相談ください

心臓の鼓動が速い・遅い、心拍のリズムが乱れる、胸(心臓)が痛い・苦しい、背中や左肩・左腕が痛い、左胸や歯・首が痛い、息苦しいといった症状は、心臓疾患の疑いがあります。心拍のリズムが乱れる症状は比較的若い方にも起こることがあるため、ご注意ください。
また、今まで普通にできていた運動や階段の上り下りで息苦しくなる場合や、足のむくみも心臓や血管の問題で起こりやすい症状であり、その段階で循環器内科を受診することで心臓や脳の深刻な発作の予防につながることも珍しくありません。同様に高血圧や脂質異常症などの生活習慣病があって動脈硬化の進行程度が気になる場合や、脳血管障害の原因になる血栓や血管の狭窄・閉塞のリスクを知りたい場合にも、専門的な検査で状態を把握して適切な治療が可能です。

循環器疾患は身近な病気です

日本では死因の第1位を長く「がん」が占めていますが、循環器疾患は「がん」に次ぐ死因第2位であり、欧米では死因の第1位を循環器疾患が占めています。狭心症や心筋梗塞といった循環器疾患の多くは、生活習慣病が元になった動脈硬化が原因で発生します。深刻な疾患を予防するために、動脈硬化が早期の段階で循環器内科を受診して血管の状態を確認し、適切な治療につなげることが必要です。

循環器内科の検査

心エコー

超音波で心臓内部の状態をリアルタイムに観察できます。心臓の筋肉の動きを観察し、心臓が血液を送り出す力に問題が無いか測定します。また、心臓の筋肉の厚みを測定して心臓肥大がないかチェックしたり、弁膜症の有無についても観察します。全身から心臓に戻ってくる血液が流れている血管の様子を観察することで、血流の渋滞がないかも調べます。検査による痛みは無く、エックス線検査(レントゲン)のように放射線被曝することもありません。

頸動脈エコー

頚動脈は首の浅い場所にある(皮膚から近い)ため、超音波を用いて狭窄などの動脈硬化の状態を詳細に調べることができます。頚動脈の壁にプラークと呼ばれる脂カスのようなものがたまると、血管が狭くなったり、プラークが破裂して血管を詰まらせたりするため、脳梗塞の原因になることが知られています。エコーによってプラークの状況を確認することで適切な治療につなげ、脳梗塞を防止する策を講じることができます。

下肢動脈エコー

超音波で足の動脈の状態を確認する検査です。血管年齢などを測定する脈波検査と合わせて下肢閉塞性動脈硬化症の診断に使われます。ただし、頚動脈エコーと比べると検査の難易度が高く、時間のかかる検査です。下肢閉塞性動脈硬化症が強く疑われる際は、エコー検査ではなく血管の造影検査が多く行われます。

下肢静脈エコー

超音波で足の静脈の状態を確認する検査です。下肢の静脈瘤や深部静脈血栓症の診断に使われます。

心電図

心臓に流れている電気を記録し、波形の異常から心臓の病気を発見したり、心拍のリズムを調べたりするのに用いられる検査です。心拍の規則正しさが乱れる不整脈の診断は、心電図の最も得意とする領域ですが、発作が起こった時でないと変化が捉えられません。そのため、電極を24時間装着して1日分の心電図を調べる24時間ホルター心電図も行われます。最近では、着脱可能なベルト式の電極を巻いて1週間分の心電図を測定できる機器もあります。心筋梗塞や心筋症などでは心臓の電気活動に異常が生じるため、心電図の波形に異常の痕跡が残っていることがあります。ただし、弁膜症ではかなり進行してからでないと心電図に異常が現れません。心電図は、正常波形ならば心臓に病気が無く異常波形ならば心臓に病気を抱えているということには必ずしもならないという点に注意が必要です。そのため、他の検査と組み合わせて判断することが必要になります。

胸部X線検査

一般的には肺の様子を確認するために行われる検査ですが、胸郭に対する心陰影の大きさや、心不全などの際には胸に水がたまっていないかなども確かめることができます。

心筋シンチグラフィ(心臓核医学検査)

放射線を出すラジオアイソトープ(放射性同位元素)で目印を付けた、心筋に集まる性質のある薬を静脈に注入して、それから出てくる放射線を特殊なカメラで撮影します。使用するお薬の種類によって、心臓の血流・脂肪酸代謝・交感神経の様子を調べることができます。放射線を出す薬を使用しますが、通常の胸のエックス線写真(レントゲン)と同じくらいの放射線の量しか受けず、ごく微量ですので心配ありません。狭心症や心筋梗塞の診断や重症度評価・治療の適応・治療効果の判定などを目的に行われます。特殊な装置や薬品が必要なため、大学病院などの大きな医療機関で行われる検査です。

心臓カテーテル検査

カテーテルというのは、合成樹脂でできた軟らかくて細長いチューブ状の管です。足の付け根(鼠径部)・手首・肘の血管から体の中にカテーテルを入れ、血管に沿って先端を心臓までもっていって検査を行います。心臓の筋肉に酸素を送っている冠動脈という血管にカテーテルを挿入し、造影剤を注入して細くなっているところが無いか調べる検査を冠動脈造影検査と呼びます。カテーテルを左心室に挿入して、心臓の動きや弁の状態を調べることもできます(左室造影検査)。また、心臓の中の圧力を測定したり、心臓から送り出す血液量を測定する検査を右心カテーテル検査といいます。いずれも体への負担があり合併症もゼロではありませんが、とても詳細な情報を得ることができます。
検査は局所麻酔で行われ、仰向けになって検査台に寝ているだけで、30分から1時間程度で終了します。局所麻酔を行う際の痛み以外ほとんど痛みを感じることはありません。検査終了後は、カテーテルを挿入した部位を圧迫して止血処置をします。心臓カテーテル検査を受ける場合、通常2日程度の入院が必要です。

心臓CT検査(マルチスライスCT)

これまで心臓カテーテル検査でしか分からなかった心臓の血管の走行や狭窄を調べることができます。血管を撮影するための造影剤の注射は必要ですが、心臓カテーテル検査に比べて危険が少なく短時間で行うことができます。心臓以外の胸部の臓器(肺や大動脈など)の情報も同時に得られるというメリットもあります。ただし、腎臓の悪い方は検査できないことがあります。また、心臓の血管の石灰化が強い場合や不整脈がある場合には、診断精度が悪くなることがあります。

心筋マーカー迅速測定装置

急性心筋梗塞などの心筋細胞が障害を受ける疾患の際、血液中に上昇するトロポニンTという物質を迅速測定することが可能です。トロポニンTは心筋特異性が高く、心筋梗塞の発症早期(発症から3時間程度)に上昇するため診断に有用です。
心不全などの際に上昇するNTproBNPという物質も迅速測定できます。心筋の中でも主に心室の壁が伸展ストレスを受けた際に分泌されるホルモンで、心不全の重症度に応じて上昇します。腎機能が低下している人では高値になることがあり、肥満者では非肥満者より低値になることが知られているため、データの解釈には注意が必要です。慢性心不全の病状の変化や治療効果の判定には、絶対値よりも過去の値との比較(変化)の方が重要です。

血圧脈波検査

「足の動脈の詰まり」を評価するABI(足関節上腕血圧比)と「血管の硬さ」を評価するPWV(脈波伝播速度)とを測定する動脈硬化の検査です。
ABI(足関節上腕血圧比)は、足首と上腕の血圧の比を測定して、血管の狭窄の程度を調べる検査です。通常、足首血圧は上腕血圧より高いのですが、足の血管が動脈硬化で細くなったり詰まったりすると、上腕血圧より足首血圧の方が低くなるということを利用しています。
PWV(脈波伝播速度)は、心臓から押し出された血液によって生じた拍動が、血管を通して手や足に届く速度のことです。この速度は血管が硬くなっているほど速くなるということを利用したもので、「血管年齢」が算出できます。

心筋梗塞で肩、腕、歯、首に痛みが起こることも

心筋梗塞心筋梗塞などの虚血性心疾患では、胸に急な痛みや苦しさを感じることが多いのですが、肩・腕・歯・首に痛みが起こることもあります。虚血性心疾患で起こるこうした心臓以外の痛みは「放散痛」と呼ばれます。胸と肩、胸と首、胸と肩と歯など複数の場所に痛みが起こることもあります。
心臓の痛みは体表面で「ここ」とピンポイントで指させる痛みではなく、「このあたり」という表現になることが多いのですが、患者さんの訴えとして「胃が痛い」とお感じになる方もいらっしゃるため注意が必要です。
また、高齢者や糖尿病がある方では痛みを自覚しにくいため、典型的な痛みの症状が出ない(無痛性心筋梗塞)ことも多くあります。

高血圧・脂質異常症と循環器疾患

高血圧や脂質異常症は動脈硬化と強い相関関係にあります。血圧が高いと血管へのダメージが積み重なって血管が硬くなり、柔軟性が失われていきます。コレステロールが多いと血管にプラークがたまって狭窄・閉塞して動脈硬化を進ませますし、プラークがはじけてしまうと血栓ができて心筋梗塞や脳卒中につながります。血圧や脂質の数値だけではわからない血管の状態をしっかり調べることは、こうした深刻な疾患の予防に不可欠なのです。

よくある質問

循環器内科で診療する病気にはどんなものがありますか?

心臓や血管に関係した疾患をみています。具体的には、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)、心臓弁膜症、心筋症、不整脈、動脈瘤などがあり、身近な疾患では高血圧症、動脈硬化も循環器内科で専門的な検査ができるため、より有効な治療につながります。

どんな症状があったら循環器内科を受診した方がいいでしょうか?

胸の痛みや苦しさ、脈の乱れ、息切れ、呼吸困難、動悸、むくみ、失神発作、めまいなどです。症状がなくても、健康診断や人間ドックで心電図の異常や要経過観察を指摘された場合も受診を検討してください。また、健康診断で高血圧や脂質異常症、メタボリックシンドロームなどを指摘された場合も、循環器内科への受診をおすすめします。

胸痛はどんな痛みでしょうか?

心臓に問題があるとよく起こる症状で、前胸部が締め付けられるように痛い、圧迫されているような苦しさと表現されます。胸痛で疑われるのは虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)で、狭心症の場合は数分で痛みが軽減します。心筋梗塞の場合にはほとんどのケースで強い痛みが長く続き、冷や汗や失神、吐き気などを伴うことがあります。なお、虚血性心疾患では、胸だけでなく、背中、肩、腕、歯に痛みを感じることもあります。
逆に数秒間で治まるような胸部症状では狭心症や心筋梗塞の可能性は低く、むしろ不整脈などの可能性を考えます。

息切れ、呼吸困難は、どんな時にどの程度あったら要注意ですか?

これまで普通に行っていた家事や階段昇降などで息切れする場合、心臓機能が低下している可能性があります。悪化すると安静にしていても息苦しくなります。横になるよりも、座った姿勢の方が楽に息ができるという場合は心不全を疑います。

動悸は心臓が強くドキドキすることですか?

鼓動を強く感じる、脈が速くなる・遅くなる、脈が乱れる、脈が飛ぶといった症状があります。

心臓カテーテル検査の内容を教えてください

足の付け根、手首、肘の血管からとても細いカテーテルというチューブ状の管を入れて心臓まで進ませて検査を行います。体への負担があり合併症もゼロではありませんが、とても詳細な情報を得ることができます。
心臓の筋肉に酸素を送っている冠動脈という血管にカテーテルを挿入し、造影剤を注入して細くなっているところが無いか調べる検査を冠動脈造影検査と呼びます。カテーテルを左心室に挿入して、心臓の動きや弁の状態を調べることもできます(左室造影検査)。また、心臓の中の圧力を測定したり、心臓から送り出す血液量を測定する検査を右心カテーテル検査といいます。心臓カテーテル検査を受ける場合、通常2日程度の入院が必要です。

虚血性心疾患とはどんな病気ですか?

動脈硬化や血栓などで心臓の血管(冠動脈)が狭くなり、血液の流れが妨げられると、心臓の筋肉に酸素や栄養が行き渡らなくなります。冠動脈が完全につまってしまって心臓の筋肉の一部が壊死してしまった状態を心筋梗塞といい、まだ完全にはつまってはいないけれど運動や強いストレスがかかると心臓の筋肉が酸素不足になって胸痛などの症状が出る状態を狭心症といいます。これらを合わせて虚血性心疾患とよびます。いいかえると、心筋に酸素と栄養を送る冠動脈に問題が起こって心筋への血流が不足するのが、狭心症と心筋梗塞という虚血性心疾患です。

狭心症と心筋梗塞の違いを知りたいのですが?

冠動脈が狭窄して心臓の筋肉に血液(酸素・栄養)が充分に行き渡らないことで一時的に胸痛を起こすのが狭心症です。冠動脈の血流が完全にストップして心臓の筋肉が死んだ状態(壊死)になるのが心筋梗塞です。どちらも胸が締め付けられるような重苦しい圧迫感が急に起こりますが、心筋梗塞の方がより重症感があります。また、狭心症での胸痛は1~5分程度であり、長くても20分以内ですが、心筋梗塞では20分以上持続し、数時間続くことも珍しくありません。心筋梗塞は命にかかわりますから、できるだけ早急な治療が必要です。

虚血性心疾患の治療法にはどのようなものがありますか?

主に薬物治療、カテーテル治療、バイパス手術が行われます。
薬物治療では、血管を広げる血管拡張薬、血液をかたまりにくくする抗血小板薬などを使用します。状態に応じて血圧をコントロールする降圧薬、心臓の負担を減らす利尿薬、心拍のリズムを整える抗不整脈薬なども用いられます。
カテーテル治療は、鼠径部(足の付け根)や肘、手首などの血管から、先端に小さな風船の付いた細い管(カテーテル)を挿入し、冠動脈の狭窄・閉塞した病変部まで進ませて、血管の内側から拡張する治療です。必要があれば拡張した部分に金属の網でできた筒状のステントを留置します。
冠動脈のバイパス手術は、体の他の部位の血管を用いて、病変部を迂回して血液が流れるルートを作る手術です。狭くなった血管の先(末梢)に新しい血管をつなぎ、血液の流れを作ります。

血管の状態を左右する生活習慣病は何ですか?

食事、運動、喫煙、飲酒、ストレスなどの生活習慣が発症や進行に大きくかかわっている慢性疾患のことを生活習慣病といいます。以前は成人病と呼ばれていましたが、成人であっても生活習慣の改善により予防可能で、成人でなくても発症する可能性があることから、1996年から「生活習慣病」に改称されました。動脈硬化の発症や進行にかかわる主な生活習慣病には、高血圧、脂質異常症、糖尿病があります。他にも、高尿酸血症、肥満症、脂肪肝、アルコール性肝炎なども生活習慣病としての側面が大きい疾病です。

生活習慣病は予防できますか?

生活習慣病の多くは、発病してもかなり進行するまで自覚症状がほとんど現れないという特徴があります。そのため、予防と早期発見・早期治療が大切になります。
生活習慣病は、適正体重の維持、バランスがとれた規則正しい食事、十分な食物繊維や水分の摂取、適度な運動の習慣化、節酒・禁酒、禁煙、充分な休息や睡眠、ストレス解消などの対策によって予防可能です。なかでも食事と運動が重要な軸になります。下記の項目に思い当たる点のある方は、習慣を変更する対策が必要です。
<体に良くない食習慣>
・濃い味付けが好き
・野菜をあまり食べない
・ファストフードをよく食べる
・コンビニ弁当をよく食べる
・お腹いっぱい食べないと気が済まない
・夜食・間食が多い
<運動不足な生活習慣>
・仕事がデスクワークでほとんど歩かない
・休日は外出せず家にいることが多い
・階段とエレベーターならエレベーターを使う
また、健康診断は必ず受けて結果を保管して数値の変化にも注意しましょう。また、健康診断で受診を指示されなかった場合でも、異常の指摘があったり何らかの症状がある場合には、医療機関を受診して相談することが必要です。
<健康診断を受ける際のポイント>
●毎年かかさず受けること
●必ず結果に目を通し改善策を立てること
●結果を保存して毎年比較すること
●症状があれば医療機関に相談すること

適度な運動は具体的にどんな内容ですか?

ややきついと感じるくらいの息がはずむ程度の有酸素運動と、筋力トレーニングとを組み合わせることで、より良い効果が生まれることが分かっています。有酸素運動は、ウォーキング・ジョギング・水泳などの全身運動です。ウォーキングであれば、背筋を伸ばし、やや大股で、軽く腕を振り、やや汗ばむ程度で1日30~60分程度、少なくとも週3回は行いましょう。運動の際は以下の式を参考に心拍数を測りながら行います。

運動時の目安となる心拍数の簡易式(カルボーネン法)
[(220-年齢)-安静時心拍数 ] ×(強度÷100)+安静時心拍数

*例:65歳で安静時心拍数70回/分の方が強度40%の運動をする場合
 [(220-65)-70] ×(40÷100)+70 =104回/分 が目標心拍数となります。
*強度は、普段から活動的な方は50%、運動不足を感じる方は40%、足腰の筋力低下がある方や安静時心拍数が80回/分以上の方は30%で計算してください。

激しい運動を急に始めると腰や膝の関節を痛めるなど思わぬ体の不調が起こります。心臓や腎臓に負担をかけることもあります。そのため、軽い運動から始めて、少しずつ強度を上げて行きましょう。また、運動前の準備体操、運動後の整理体操を行い、夏の炎天下や冬の寒冷時に無理して運動することは避けてください。
高齢の方・循環器系の持病のある方・糖尿病の方などは、一律に運動強度を決めることができないため、主治医とよく相談しましょう。

血圧を上げてしまう原因にはどんなものがありますか?

塩分の過剰摂取、肥満、喫煙、アルコールの過剰摂取、ストレス、寒冷などがあります。

減塩は高血圧の改善に必要ですか?

食塩に含まれるナトリウムを多く摂取すると、血液の浸透圧を一定に保とうとする働きで水分が増えるため、血圧が上昇すると考えられています。高血圧には、塩分の影響を受けやすいタイプ(食塩感受性高血圧)と、そうでないタイプ(食塩非感受性高血圧)とがあります。体にはナトリウムを一定に保つ機能があり、ナトリウム濃度が低下すれば腎臓で再吸収し、逆に濃度が上昇すれば腎臓から排出しています。食塩感受性タイプの人では、腎臓でのナトリウム排泄機能に障害が生じやすいと考えられています。塩分を過剰に摂取すると塩分の排出を担う遺伝子の働きが抑制されて、血液中のナトリウム濃度が増加してしまうのです。
食塩の過剰摂取が血圧上昇と関連するという報告は多数あり、減塩の降圧効果についても証明されています。また、食塩摂取量と全死亡との間には直線関係(食塩摂取量が多いほど全死亡が多い)が認められています。さまざまな研究結果より、日本の高血圧治療ガイドラインでは減塩目標を6g/日未満と定めています。米国や欧州のガイドラインではさらに厳しい減塩が推奨されています。しかし、2018年の国民健康・栄養調査によると、日本人の平均食塩摂取量は男性11.0g・女性9.3gとされており、依然として高い水準にあります。
カリウムは塩分(ナトリウム)の血圧上昇作用に拮抗するため、塩分の制限とともに野菜・果物などカリウムを多く含む食物の摂取も積極的に考える必要があります。

飲酒は控えた方がいいですか?

飲み過ぎると高血圧、脳出血、不整脈などのリスクを上昇させることが分かっています。アルコールの単回摂取は数時間持続する血圧低下につながりますが、長期に続けると血圧は上昇に転じます。飲酒の際に塩分の多いおつまみを食べることも血圧を上昇させる一因になります。また、出血性脳卒中はアルコールの摂取量に伴い直線的に増加することが知られています。脂質異常症でも中性脂肪が過剰なタイプの場合には禁酒が必要です。アルコールの摂取量に比例して、肝臓での中性脂肪の合成が増加します。
適量の飲酒とは1日に純アルコールで20g程度とされており、これは日本酒なら1合(180ml)、ビールなら500ml缶1本、チューハイなら350ml缶1本、ウイスキーならダブル1杯(60ml)、ワインならグラス2杯弱(200ml)に相当します。

純アルコールの計算式は以下の通りです。
純アルコール量(g)=お酒の量(ml)×アルコール度数/100×0.8(アルコールの比重)

<健康的なお酒の飲み方>
・適量を守る
・すきっ腹で飲まない
・食事と一緒にゆっくり飲む
・週2日以上の休肝日を作る
・強いお酒は薄めて飲む
・飲酒後の入浴や運動は控える
・未成年者は絶対に飲酒しない
・妊娠中・授乳中の飲酒は厳禁
・絶対に飲酒運転しない

肥満解消は高血圧の改善に有効ですか?

日本ではBMI(Body Mass Index)=[体重(kg)]/[身長(m)]²が25以上の場合を肥満と判定します。肥満が高血圧発症の危険因子になることは明らかで、高血圧発症リスクはBMI<20の人に比べてBMI=25~30の人では1.5~2.5倍と言われています。体重減量の降圧効果は、1㎏の減量で収縮期血圧が約1.1mmHg低下すると推定されているため、かなり効果が高いと言えます。また、日本人の肥満者を対象にした研究で3%以上の減量で有意な降圧をきたすことが示されています。

コレステロールは少なければ少ないほど病気予防に役立ちますか?

動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは、10年間の冠動脈疾患の発症率を評価する「吹田スコア」に基づいて危険度を判断し、治療目標を設定するよう定められています。吹田スコアを簡便に算出できる無料アプリがダウンロード可能となっています。
コレステロールが低い方が癌や脳出血の死亡率が高いという研究結果が報道などで取り上げられることがありますが、これは見かけ上の関係に過ぎないという結論になっています。例えば、肝硬変をベースとする肝臓がんでは、肝臓でのコレステロールの合成が低下するため、あたかも低コレステロールが原因で肝臓がんになったように見えてしまうといったことです。脳出血についても、お薬でコレステロールを下げた場合に脳出血が増加するという明らかな証拠は無く、むしろ血圧管理の方がずっと影響が大きいと考えられます。
吹田スコアを参考に、それぞれの方の状況に応じた脂質管理を行うことが大切です。

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