風邪っぽい症状の見分け方

その症状、ホントに風邪ですか?

風邪日本は医療機関を受診しやすい環境が整っています。そのため、風邪に限らず多くの病気において、初期の段階で医療機関を受診をされる患者さんがたくさんいらっしゃいます。その場合、まだ症状がそろっていない段階のため、重い病気にもかかわらずとても軽い症状で受診されることもあります。そんな中、風邪に似ているけれども風邪ではない病気を見分けるのは、なかなか大変です。ここでは、風邪っぽい症状の見分け方について解説します。

まず、「風邪」の定義は何でしょうか。風邪とは「ほとんどの場合は自然に治るウイルス感染症で、喉の痛み、鼻水、咳など多くの症状を呈する上気道感染」のことです。風邪(ウイルス性の上気道感染)の特徴は、多くの症状を呈することです。一方、細菌感染の場合は、原則的に1つの臓器に1つの菌が感染するため、多症状を呈することは少ないと考えられます。

主な症状別、可能性が高い疾患

典型的な風邪の場合

喉の痛み、鼻水、咳の3大症状が急性に同程度で存在する場合、それは典型的な「風邪」と言って良いでしょう。風邪による喉の痛みは、食べ物や唾を飲み込むと痛む「嚥下時痛」が典型的です。嚥下時痛が無く、咳をしたときのみ喉が痛むのであれば、それは喉の感染ではなく気管支や肺の感染と考えた方が良いと思われます。痰が絡む場合、それは気管支から出ている場合と鼻水が喉に落ち込んだ場合(後鼻漏)とが考えられます。飲み込みたくなるような感じであれば、気管支からの痰ではなく鼻水による可能性が高いと考えられます。

鼻症状が主な場合

鼻喉の痛み、鼻水、咳の3大症状の中で、鼻水がメインになるときはどう考えれば良いでしょうか。この場合、風邪との区別を要する病気としては、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎があります。
アレルギー性鼻炎は、朝方にクシャミや鼻水がある、季節性があるなどの特徴があれば、より疑いが強くなります。
副鼻腔炎には細菌性とウイルス性とがあります。細菌性副鼻腔炎の場合、抗菌薬の内服が必要になりますので区別が必要です。細菌性の副鼻腔炎を疑う徴候は、鼻炎症状が1週間以上続いていて、片側の頬に強い痛みや腫れがあり、熱が続いているような場合です。また、最初は鼻水や微熱があり、いったん改善傾向になったように見えたけれども、数日して膿性鼻汁が出て熱もぶり返したというような二峰性の経過の場合、細菌性の疑いが強くなります。

喉症状が主な場合

喉喉の痛み、鼻水、咳の3大症状の中で、喉症状がメインになる場合を考えてみましょう。まずは、喉が痛いという場合、唾を飲み込むと痛い「嚥下時痛」であるかどうかが大切です。嚥下時痛でない場合は喉の炎症(咽頭炎)ではないかもしれません。
咽頭炎を起こす代表的な菌に溶連菌があります。溶連菌性の咽頭炎を診断するにあたって、Centorの診断基準というものがあります。

Centorの診断基準

38℃以上の発熱 +1点
首のリンパ節が腫れて押さえると痛む +1点
扁桃の発赤に白いブツブツを伴う +1点
咳が無い +1点
年齢が15歳未満 +1点
年齢が45歳以上 -1点

合計点が4点以上だと溶連菌性咽頭炎の可能性が高く40~60%程度と言われています。
上記に加えて、鼻水が無い、左右の喉のどちらかが痛いというようなことがあれば、さらに可能性は高いと考えられます。溶連菌性咽頭炎の場合、抗菌薬の内服が必要になります。

扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎

咽頭炎に関連した重い病気には、扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎があります。
扁桃周囲膿瘍は扁桃炎が悪化して起こる病気です。口の奥の両側にある口蓋扁桃という組織が細菌感染で炎症を起こし、膿を持った状態です。20~30歳代の男性に多いと言われます。38℃以上の発熱や全身のだるさを伴い、多くは片側の喉の強い痛みがあります。口を大きく開けられないため「食事が取れない」と言って受診されます。この「開口障害」は重い状態に進展する可能性のあるサインですので注意が必要です。また、Hot Potato Voiceと呼ばれる熱いジャガイモを口に含んだような特有の声になることがあります。治療の基本は抗菌薬の投与ですが、切開排膿などの外科的処置も考慮されます。
急性喉頭蓋炎は、声帯の上の方にある喉頭蓋に炎症が起こる病気です。喉頭蓋は、食べ物が空気の通り道に入り込まないように、気管に蓋をする役割をしています。そのため、炎症を起こして腫れると、空気の通り道が狭くなって呼吸困難を起こします。唾も飲めず口を開けたままヨダレを垂らしたり、気道が最も広くなる体位であるsniffing position(花の匂いをかぐように鼻を突き出し首を延ばした体位)を取ることがあります。窒息の危険がある病気のため注意が必要です。

伝染性単核球症

伝染性単核球症も比較的よく見る病気です。発熱、倦怠感、咽頭痛、頚部リンパ節腫脹、肝脾腫などの症状を呈します。喉には白いベタッとした「白苔」が付着するのが特徴で、EBウイルスやサイトメガロウイルスの感染が原因となります。

亜急性甲状腺炎

喉の痛みを訴える見落とされがちな病気として、亜急性甲状腺炎があります。亜急性甲状腺炎は、首の前側で「のどぼとけ」の下にある甲状腺という臓器に炎症が起きる病気で、発熱や甲状腺の腫れ・痛みが生じます。腫れや痛みは時間とともに位置が移動することがあります。また、甲状腺ホルモンを作る細胞が破壊されて、蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液の中に流れ出すため、甲状腺ホルモン過剰による動悸・多汗・倦怠感などの症状が現れます。多くは2~3か月で症状が消失し自然に治ります。甲状腺ホルモンも徐々に正常に戻りますが、一過性に甲状腺内のホルモンが枯渇して機能低下の状態になることがあります。男性よりも圧倒的に女性(30~40歳代)に多い病気です。

その他の病気

喉の症状で受診する喉以外の重大な病気として、大動脈解離、心筋梗塞、くも膜下出血などがあります。これらの病気は、命にかかわることがある上に、非典型例も多くさまざまな症状を呈するため注意が必要です。
また、胃食道逆流症や不安神経症でも喉の違和感が出ることがありますので、可能性の1つに加えておく必要があります。

咳症状が主な場合

咳喉の痛み、鼻水、咳の3大症状の中で、咳が目立つ場合についてはどうでしょうか。咳がメインになる場合は、気管支炎や肺炎を考えます。肺炎を疑う時は胸部エックス線写真での確認となりますが、エックス線写真で見えるのは肺全体の約70%程度と言われており、初期の肺炎や小さな肺炎は見つけられないことがあります。高齢者でCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの病気を持っている場合、細菌感染が原因となることがあるため、抗菌薬の使用を考慮します。また、悪寒戦慄(ガタガタ震えて止まらない悪寒)を伴う38℃以上の発熱や、パジャマを交換するほどの寝汗をビッショリかくようであれば、肺炎を疑って対応した方が良いでしょう。
ただし、インフルエンザは、肺炎が無くても悪寒・高熱などを伴いますので区別が必要です。また、1~2週間ほど咳や微熱が続く場合は、マイコプラズマや百日咳を考える必要があります。結核も日本にはまだまだ多いため念頭に置く必要があり、長く続く咳の場合は積極的に胸部エックス線写真での確認を考慮することが望ましいと言えます。
慢性的に続く咳の原因としては、後鼻漏・咳喘息・胃食道逆流症が3大原因と言われますので、咳ばかりが長期間にわたり続くときにはこれらを疑う必要があります。
肺が直接の原因ではないのに咳が出る病気としては心不全があります。心不全とは、心臓のポンプとしての働きが低下して、全身の臓器に必要な血液を送ることができなくなった状態を指します。心不全の代表的な症状として、動悸・息切れ・むくみなどが有名ですが、夜、横になると咳が出るといった風邪に似た症状を呈することがあります。

典型的な風邪症状でないと感じたら医療機関へ

このように、「風邪っぽい症状」といっても、その背景には様々な病気が隠れていることがあります。
もし典型的な風邪症状でないと感じた場合には、一度、医療機関への受診を考慮する必要があるかもしれません。

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