コラム

2020.10.05

不眠症と漢方薬

漢方薬を選択肢に

現在、日本では5人に1人が睡眠に問題があるというデータもあるほど、不眠症が身近な問題となっています。

日本で広く使用されているベンゾジアゼピン系などの西洋薬の睡眠薬は、いくつかの問題点が指摘されています。
1つは「持ち越し効果」と呼ばれるもので、睡眠薬の作用が翌日まで残ってしまい、日中に眠気や倦怠感を感じて判断力の低下を招く現象です。
高齢者では転倒や骨折の危険を高めるとされています。
もう1つは「依存性」の問題です。睡眠薬の服用期間が長くなると効果が減弱し、しだいに服用量が増えてしまったり、減量や中止をしようとすると離脱症状が出て眠れなくなるため、やめられなくなるというものです。

これらのことから、睡眠薬を使用することに不安を感じて、服用を躊躇している方もいらっしゃると思います。
そんな場合は、漢方薬を選択肢に加えてはいかがでしょうか。漢方薬だけで眠れるようになる方もいますし、漢方薬を併用することで西洋薬の睡眠薬の量を減らすことができたという方もいます。

 

不眠に効果的な漢方薬

不眠症で使用される代表的な漢方薬は「酸棗仁湯」(さんそうにんとう)です。不眠症の方の中には、「心も体も疲労困憊だけど、寝るときに限って目がさえてしまう」という方がいます。こういった症状に対して酸棗仁湯は効果を発揮します。酸棗仁湯の添付文書(薬の能書き)には「心身がつかれ弱って眠れないもの」という効能の記載があります。

日中のイライラや過緊張が原因になっているような場合は、「抑肝散」(よくかんさん)や「柴胡加竜骨牡蠣湯」(さいこかりゅうこつぼれいとう)が有効な場合もあります。
そのため、抑肝散または柴胡加竜骨牡蠣湯を朝・昼に飲んでおいて、寝る前に酸棗仁湯を使用するといったやり方もあります。

また、冷えがあると自律神経が交感神経優位となって不眠が起きることがあります。そのような場合は、「真武湯」(しんぶとう)や「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)など体を温める漢方薬を併用することが有効な場合もあります。

漢方薬は西洋薬の睡眠薬ほどの即効性はありませんが、概ね24週間くらいで変化を感じられることが多いと思います。西洋薬に比べると副作用は圧倒的に少ないのですが、酸棗仁湯などに含まれる甘草という生薬が、むくみ・血圧上昇・カリウム低下などを起こす(偽性アルドステロン症)ことがあります。

漢方薬の中には、睡眠に悪影響を与える生薬があります。
それは麻黄(まおう)という生薬で、エフェドリンという物質を含み、覚醒刺激があります。
麻黄を含む漢方薬は「麻黄湯」(まおうとう)が代表ですが、実はあの有名な「葛根湯」(かっこんとう)にも麻黄が含まれています。
そのため、不眠症の人が葛根湯を使用する際は注意が必要です。

不眠症は、背景に認知症・うつ病・夜間頻尿・睡眠時無呼吸症候群・レストレスレッグス症候群(むずむず脚)など色々な病気が隠れていることがあります。
そのため、多面的に診て診断する必要があります。かかりつけ医とよく相談して治療方針を決定しましょう。